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ART2023.01.20

新進気鋭のアーティスト・野島渓の作品展が約3年の時を経てついにお披露目される。制作への衝動、その源とは?

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HYSTERIC GLAMOUR SHIBUYAで1月21日(土)からスタートするエキシビション『BLIND KILL』。新進気鋭のアーティストである野島渓をフィーチャーしたこの作品展は、2019年から準備を進め、作品は2020年以前のコロナ禍で完成したものを本展まで眠らせていた。約3年の時を経てついにお披露目されるわけだが、この展示の発端はまだ作家として歩みはじめたばかりの野島渓の衝動により叶ったHYSTERIC GLAMOURデザイナーの北村信彦との出会いから始まる。ここまでの経緯や作品についてなどを、野島と北村が対談で語る。

「お前、音楽好きだろ」って言ってくれてすごく嬉しかった記憶があります。

ーエキシビション『BLIND KILL』がようやくお披露目になりましたね。この展示の作品制作はいつ頃から始めていたのでしょうか?

野島渓(※以下、野島):
2019〜2020年くらいですかね。2020年中には作品が完成していたと思います。

北村信彦(※以下、北村):
そうそう。確か2019年くらいに作品展を一緒にやろうって動きだして、その1ヶ月後くらいにはもうパンデミックが始まっていたんじゃないかな。だから作品が完成してから丸々2年ぐらい寝かせていたんだよね。

ーそもそものお2人の出会いや展示をやることになった経緯を教えてください。

北村:
レッドシューズ(南青山のバー)のイベントで僕がDJをしていた時に彼がでっかいバッグに結構な量の作品を詰めて持ってきて「作品を見てもらう時間はありますか?」っていきなり声をかけてきたんだよ(笑)。

野島:
そうなんです。めちゃくちゃ作品を持っていきました(笑)。大学院を卒業することにはなったけど特に何も決まってないし、焦りみたいなのもあって。ちょうど北村さんがレッドシューズのイベントでDJするっていうのをSNSでチェックしていたんで、その日にダメもとで突然会いに行きました。

北村:
VHSのカセットテープにコラージュしている作品や7インチレコード盤のジャケットサイズの作品とか、色々と見せてくれて。もちろん僕はそれまで野島くんのことは知らなかったし、お酒も入っていたんだけど……どこか僕好みのテイストを持っているなぁって感じたんだよね。あのバーの赤い世界と作品も合っていたし(笑)。じゃあ今度、事務所に遊びに来なよ、ってそんな感じだったよね。

野島:
北村さんは絶対音楽が好きだろうなっていうのは分かっていたんで、もしかしたら(僕の作品が)刺さるかもっていう確信みたいなものはありました(笑)。すごく記憶しているのは作品を見て「お前、音楽好きだろ」って言ってくれて。そこが伝わってものすごく嬉しかったことを覚えています。

北村:
’80〜’90年代ぐらいに自分と一緒に色々と活動をし始めた国内外のアーティストたちは、今も活躍していてネームバリューも出てきているし、今だに付き合いがあるからコラボも一緒にするんだけど。最近のH.G.A.S.もそうだけど、世代の違う若い連中に面白い子がいたら、その活動をサポートするようなこともやっていきたいって思い始めたのが、コロナ前くらいのタイミングだったんだよね。そしたら、ちょうど目の前に野島くんが現れたから、だったらこれも何かの縁かなって。レッドシューズの後に割とすぐ展示の話は進めていたかな。

ー今回の展示はレコードのジャケットをべースに作品が作られていますが、その方向性はどうやって決めていきましたか?

北村:
彼の作品は印刷物やシルバーテープを切り貼りして重ねて、さらに上からペイントでカラースクラッチをしてエフェクトをかけたりする手法が面白いと思った。平面上で音のサンプリングをしているみたいな。どこかアブストラクトだけどポップで。

野島:
なんとなくギラついている感じですよね。

北村:
だからHYSでの展示もやっぱり音楽を題材にしてもらうのが一番しっくりくるなって。レコードのジャケットを素材に渡したら野島くんはどういじってくるかを想像してみた。彼がコラージュに使っている写真や印刷物よりも、そこに被せているエフェクトの仕方で音楽のイメージが浮かんでくるというか……ちょっとスペイシーでアンビエントでノイズも混じって聴こえてきたり。クラブや野外の自然の中で夜中に響いているようなトリッキーな音のエフェクト感。そんな風に野島くんの作品を最初に見た時に感じたんだよ。僕も何年か前に、ジャーマンプログレッシブやアンビエントテクノ系にハマった時期があったから、野島くんの作品から聴こえてくる音に合うレコードジャケットは浮かぶけど、そこに彼の手法をのせちゃうと面白くない。だからMadonnaやKissのようなイメージしやすい楽曲や色があるアーティストのジャケットに対し、野島くんがエフェクトをかけることによって見えてくる音色や景色がどう変わるかな、っていうのを見てみたいと思って、僕がベースの素材を選んでみた。

ー感覚的にはDJにリミックスしてもらうみたいな感じですね。

北村:
そう。仕上がった一連の作品を見ると、ベースの素材(様々なアーティストのレコードジャケット)はバラバラなのに同じ音色が聴こえてくるし統一感がある。元の曲は全然違うのに、同じ人がリミックスすると、その曲に第三者の個性がオーバーラップするみたいな。だから今回はやってみて思惑にハマッたなって思う。

野島:
北村さんが選んできたジャケットはアイコンとしてかなり強いものばかりで、それをどうやって崩していこうかなって結構考えました。Blind Faithは元ネタがかなり完成されたデザインで隙があまりなくて難しかった記憶があります。しかもべースになる素材を決めてもらって作品制作をしたのはこの展示が初めてじゃないかな。それもあって不思議な感覚でした。DJで言うバックトゥバックじゃないけど、僕の番でどう対応しようか……みたいなのが楽しかったです。

ーまさにDJ野島的な(笑)。

北村:
素材を渡してから完成までも早かったよね。もうできました!って。やりきったような感じだったし、それだけノッてたってことじゃない。

音を感じられるような作品を作りたいとはずっと思っています。

ー作品はすべて手作業で制作するそうですが、フィジカルにこだわる理由は?

野島:
素材用に自分で撮影した写真の色味をパソコンでいじったりはしますが後はほとんど手作業ですね。今回だったら、ベースとなるジャケットに印刷物や写真を貼って重ねてペイントして、また切り抜いて貼ってみたいな感じです。

北村:
例えば生け花って植物の幹や枝ぶりを見て生ける角度が変わったり、メインになる花の向きで次に合わせる植物や色を考えるじゃない。野島くんの作業を見ていると似た感じがするよね。

野島:
そうですね。バランスを取っていく作業なんです。そっちに傾いたらこっちへ調整して戻すというか。フィジカルにこだわるのは、例えばペイントする時に複数の絵の具を合わせてブラシをスライドさせるんですけど、それが混ざった瞬間ってデジタルでは再現できない偶然性がある思うし、カットの仕方もデジタルだとどうしても手のノイズ感みたいなものがなくなってきれいな感じがしてしまう。これがどうも苦手なんでしょうね。手作業は揺らぎみたいなものが生まれやすい……フリージャズとかを聴いているとすごく揺らぐじゃないですか。あの揺らぎが好きなんです。バチっと決めたくないし、決めすぎると術中にハマッちゃう気がして。偶然性をもっと味方にしたいというか。

ーその作品や制作のスタイルは、何に影響されているんでしょうか?

野島:
ジャズをよく聴きますし、Jimi Hendrix、Jaco Pastorius、村八分や裸のラリーズとか……音楽からは結構多いですね。音楽が好きなんで、音を感じたい、感じられるような作品を作りたいとはずっと思っています。

ーそういう視点での今回の作品展のみどころは?

野島:
やっぱりこの頃にしかできないことを表現しているし、多分この時の爆発力みたいなものはもう出せないのかなって思う。すごく演奏の下手なパンクスがバンドを組んで、ガーッと音を鳴らしたら、なんかめちゃくちゃかっこいい! みたいな感じの瞬発力なのかなとは思ったりします。

ーということは空白の時間を経て今回の展示前に何か作品に手を加えたりも?

北村:
全くしていないよね。

野島:
なんとなくこの時の勢いのままがいいなって。タイムカプセル的な……手を加えちゃうとなんかバラけてしまう。今見てもフィニッシュ感があるんですよね。もう付け足すところはない。

北村:
レッドシューズで初めて会った当時はほとんど作品発表をしていなかった頃だったけど、すぐにHYSの展示制作をしてもらっていたじゃない。で、それを寝かせている間に、例えば米ちゃん(編集者・アーティストの米原康正)にフックアップされたり、他でも何度か展示をこなしてだいぶ彼も場数を踏んでいたから、一度は制作をやり直した方がいいのかなって実は思ったこともあったよね。それだけ期間が経っていたから。だけど改めて今回の作品を見たら、これはこれでありだなって。

野島:
この時にしかこれはできなかったっていう感覚はあります。

北村:
音楽で言うと例えばジャズのセッションを同じ曲目で3日間ライブをやったとしても毎日テンションも違うし同じようにはならない。3日間の内のあの日のライブを見た人はラッキーだったよね、みたいになるじゃない。その世界だね。

ー今後の活動や目標みたいなものは?

野島:
僕自身はあまり目標設定とかを決めちゃうと突き抜けられない感じがしていて。めちゃくちゃ実力がある人に勝つには偶然の爆発力でバーンと飛ぶくらいじゃないと勝てないなって。でも要望があればなるべくそれには応えたいとは思っています。

北村:
今、思いついたんけど。インドアじゃなくてグラフィティ的な感じで、例えばビルボードとかにすでに貼ってあるビジュアルに野島くんが直接ペイントやエフェクトをつけたりするのもいいよね。グラフィティ=違法行為だったりはするけど、許可取ってやっているアーティストもいるし。スタイルはオールドファッションなんだけど、その昔にスプレー缶でやっていたことをもっと違う手法にして、ビルボードを15分位でジャックするみたいな。自分で改良したブラシとかを使い分けたりしても面白くない?

野島:
あ、僕、道具も自作していますよ。 HYSのビルボードでぜひ!

About H.G.A.S.
(HYSTERIC GLAMOUR AFTER SCHOOL)はHYSTERIC GLAMOURがZ世代に向け発信するプロジェクト。“アートスクールの放課後”をコンセプトに、音楽、映像、アニメーションなど様々な分野で才能を発揮する若きクリエイターたちのアイディアをファッションと融合して発表している。放課後のくだらない遊びの延長線にあるような、無意味だけどドキドキする実験的なクエリエイティブに挑戦中。

「BLIND KILL」

期間:2023 年1月21日(土)〜2月5日(日)
場所:HYSTERIC GLAMOUR 渋谷店
渋谷区神宮前6-23-2 1F / tel_03-3409-7227

また会場ではスペシャルなZINEも発売いたします。

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BLIND KILL ARTWORK

野島渓/Kei Nojima

1993年東京都福生市生まれ。主にコラージュの画像と画像のズレによるグルーヴやサンプリングをすることで作品と音楽を繋げることをテーマにコラージュ作品を制作。 また国内での個展開催やグループ展の参加の他に、アパレルブランドやデパートのショウウィンドウなどにアートワーク提供も行なっている。
■経歴
2016 第15回『1_WALL』グラフィック室賀清徳選 審査員奨励賞
2017 TAMBOURIN GALLERY 個展「Boom Boom」
2018 表参道ROCKET 個展「JAM」開催、湘南T-Site 個展「Drift」開催
2019 東京造形大学大学院デザイン研究領域卒業 WISH LESS 個展「Over and over」開催、「シブヤスタイル Vol.13」参加
2020 「シブヤスタイル Vol.14」参加
2021 CLASS 個展「Assemblage」開催、WISH LESS 個展「1BEDROOM」開催、MDP gallery 個展「Distortion 」開催、or個展「Vol.05 Kei Nojima」開催、「シブヤスタイル Vol.15」参加


https://www.instagram.com/kei_nojima/

北村信彦

1962年東京生まれ。東京モード学園を卒業した1984年、(株)オゾンコミュニティに入社。同年、21歳でHYSTERIC GLAMOURをスタート。10代半ばから猛烈にアディクトするロックミュージックを礎に、ブランド設立当初ロックとファッションの融合をいち早く見出したコレクションを提案。ソニック・ユースやプライマル・スクリーム、パティ・スミス、コートニー・ラブをはじめとして数多なアーティストたちと親交を深める。 一方、ポルノグラフィティやコンテンポラリーアートなどにも傾倒、その感性はHYSTERIC GLAMOURの代名詞の1つでもあるTシャツでも表現している。また、テリー・リチャードソンや森山大道、荒木経惟をはじめとする写真作家の作品集を自主制作・出版するなど、現代写真界にも深く携わる。

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