10月28日に日本先行発売となる、KIKO KOSTADINOV x HYSTERIC GLAMOUR 限定カプセルコレクション。誰もが想像しえなかった異色の組み合わせともいえる今回のコラボレーションはいかにして生まれたのか。取材直前に初めて直接会ったというHYSTERIC GLAMOURデザイナー北村信彦と、KIKO KOSTADINOVデザイナーのキコ・コスタディノフ、ウィメンズラインのデザインを手がけるローラ・ファニング、ディアナ・ファニング、そして写真家のロージー・マークスがコラボレーションの経緯などについて語り合いました。
ーどのようにしてこのコラボレーションが生まれたのでしょうか?
キコ・コスタディノフ(※以下、キコ):
共通の友人のマイケル(Michael Kopelman)にノブを紹介してもらえないか頼んだんだ。ノブはマイケルとどうやって知り合ったんですか?
北村信彦(※以下、北村):
1989年頃、マイケルが僕のオフィスに来たんだ。
キコ:
僕たちが生まれた頃ですね(笑)。
北村:
(笑)。当時、最初に出会ったのは、ジェームス・ルボン(James Lebon)だった。彼が東京にやってきてしばらく、僕の家に住んでいたんだよね。当時、彼はフィルム会社を始めたばかりで、「ヒステリックグラマーのビデオを作れないか」と聞いてきた。良いアイデアだと思ったから、オフィスと原宿で撮影をして。とても良かった。サウンドトラックも素敵だった。それから2ヶ月ほどしたある日、マイケルが僕のオフィスに来たんだ。「僕の名前はマイケル・コペルマンです。あのビデオのサウンドトラックを作ったんだけど」といった具合で。それから、彼はヒステリックグラマーをイギリスで広めることに興味があると言ってくれて。
キコ:
当時、ヒスは日本ではすでにかなり有名だったと思いますが、イギリスではまだでしたよね。
北村:
うん。マイケルは90年代以降、僕にとっても東京のカルチャーにとっても、重要な人物の一人。彼がその頃ショーン(Shawn Stüssy)と一緒にStüssyを日本に持ってきたんだ。マイケルは当時、東京、LA、NY、ロンドンをわたり歩いて、たくさんのアーティストやデザイナー、フォトグラファーを知っていて、彼らを互いに繋げあっていた。特に裏原カルチャーは、マイケルが東京にいなかったら、こうはなってなかったんじゃないかな。彼がヒロシ(藤原ヒロシ)と一緒にやってた、GOODENOUGHもGimme Fiveがロンドンで展開してた。
キコ:
キム・ジョーンズ(Kim Jones)もマイケルの事務所で働いていたことがあって、彼はそこでたくさんの人に出会い、全てを学んだそうです。マイケルは東京に新しいカルチャーを持ち込んだだけでなく、ヒスをはじめ、NigoやUNDERCOVERなど、多くの日本ブランドをヨーロッパに広めましたよね。僕は、マイケルとは12年くらいの付き合いで、彼のオフィスには、昔のヒスのソファなど、ヒスの過去の貴重なグッズがたくさんあるので、そこでアイデアを得ました。誰もが簡単には予想できないようなプロジェクトをやりたかったので、まずは本を出版することを考えました。マイケルはヒスの写真集もすべて持っているんですよ。『Mark's Book(実録2f2 MARK LEBON LONDON (WEST) 1992-3 』とかね。
北村:
僕が、一番最初に作った本だね。中には、タイロン・ルボン(Tyrone Lebon)が5歳くらいの時の写真があるよ。赤ん坊のフランク・ルボン(Frank Lebon)を抱いている写真もある。ロージーはフランクとタイロンを知っているんだよね。
ロージー・マークス(※以下、ロージー):
タイロンとは一緒に仕事をしていました。
北村:
タイロンとフランクは僕の親友でもあるんだ。ジェームスとマイケルは僕にたくさんの素晴らしい友人を紹介してくれた。マイケルがキコを紹介してくれた時、彼は「キコという若いデザイナーが、コラボレーションをしたいそうなんだ」とメールをくれたんだ。でも、キコのことを最初に知ったのは、加茂克也さんを通してだったね。
キコ:
彼はロンドンで開催した僕たちのショーで、ヘアメイクアーティストとして参加してくれました。
北村:
加茂さんとは何度も撮影をしたんだけど、加茂さんがキコのことを話していたんだよね。でもまだブランドのことは詳しくは知らなかった。だけどマイケルがメールで「もし二人がコラボしたら、今までの他のストリートウェアブランドとのコラボとは違うから、何か新しいことが起こると思う」と言っていて。だから「イエス」と答えた。最初はブックを作ろうという提案だったと思うんだけど、これはヒスを振り返る上でとても新しいアプローチだと思ったね。
キコ:
今回のコラボレーションは、今までとは違うやり方で新しいものを作ろうという理念とアイデアでやっています。アシックスを例にしても、みんな最初は驚くんだけど、最終的には「意外だけど理にかなっている」と思ってくれる。今回も、反応が楽しみです。
ローラ・ファニング(※以下、ローラ):
イギリスでは、ヒスのヴィンテージの人気もすごいので反応が楽しみです。
キコ:
若い女の子はみんなヴィンテージのヒスを着て、MIU MIUやPRADAなどとミックスしているよね。
ディアナ・ファニング(※以下、ディアナ):
そう。特に面白い女の子たちが。彼女たちのスタイリングや聴いている音楽など、その全てが面白いですね。
ローラ:
それに、イギリスでは悲しいことに女の子向けのかっこいいものが少ないんです。男の子向けにはいつもかっこいいものがあるけど、女の子は男向けのものを探すしかなかったりします。それはそれでいいけれど、私たちがもう少し女の子のためのものを作ってもいいかなと思って。
キコ:
ノブは、新しい世代がブランドを再発見していることについてどう思いますか?
北村:
本当に嬉しい。というのも、学生時代、僕はファッションジャンキーという感じではなかった。ファッションよりも、音楽やサブカルチャーが好きだったんだよね。だからブランドを始めた頃、音楽やサブカルチャー、そして古着から多くのアイデアを得ていたんだ。デザイナーズブランドには興味がなくて、ミリタリーウェアや古着が好きだった。毎週毎週、古着屋に通ってた。だから、ヒスを始めた時のコンセプトは、誰かがヒスの服を買って売って、いつか他の誰かがそのヒスの古着を見つけて「これ何だろう? いいな!」と思ってくれればいいな、という感じだったね。
キコ:
一周回ってね(笑)。
北村:
そういう風にしたかったんだよね。だから、40年近く経って、日本やアメリカ、ヨーロッパの若い子たちがヒスのヴィンテージを探し出して、再発見しているのはすごいことだと思う。僕は21歳の時にヒスを始めたんだけど、来月で60歳になる。でも時々SNSをチェックして若い子たちの投稿を見ると、どんどん新たなアイデアが生まれてくる。それが、いつまでも新鮮な気持ちでいさせてくれるんだ。もうすぐ60歳になるのに、心は20歳のままのようだね。
キコ:
このコラボレーションは、商業的というよりも、お互いを信頼し合いながら特別なものを作ることが目的だったと思います。また、自分たちの視点を持ちつつ、ブランドの価値観を尊重したものを作ることも大事でした。当然、歴史の長いブランドをリスペクトする必要がありますからね。でも、どうすればもっとエキサイティングで、みんなに欲しいと思ってもらえるものにできるのだろう? そう考えた時に、写真を通して面白い視点を提供することができ、かつタイロンファミリーの娘のような存在である、ロージーを起用することも大事だと思ったんです。
北村:
二つの世代が一緒になって。
キコ:
お互いをリスペクトしながらですね。
北村:
僕がコラボレーションをするときに大切にしているのは、相手をリスペクトできるかどうか。キコとは、今まで会ったことがなくて、今日初めて直接会った。けど、僕らにはたくさんの共通の友人がいる。そして、僕は自分の友人たちをリスペクトしている。彼らがキコを信じているなら、僕もキコを信じる。それが一番大事なこと。もちろん、やっていることのクオリティやデザインも大事だけどね。でも一番大事なのは人柄だと思う。
キコ:
自然であるべきですよね。だから、まずはマイケルに僕らがやりたいことを説明して、納得してもらう必要があると考えてアプローチしました。そして、マイケルがいいアイデアだと思ってくれれば、ノブもイエスと言ってくれると思ったんです。なぜなら、マイケルとノブの関係はまるで兄弟のようで、お互いに深く信頼し合っていることを知っていたからね。
ー今回のアパレルラインのデザインや制作プロセスについて教えてください。
キコ:
すべてのディティールにこだわり抜きました。ジッパーや裏地などは、すべてカスタムメイドです。布地のプリントは日本で行ったあと、ロンドンに送ってもらい、そこで制作しました。とても時間と手間のかかる作業でした。でも、価格的には手が届きやすいものにすることも大事にしましたね。それから、KIKO KOSTADINOVのウィメンズラインをローラとディアナと共に新たな方向へと展開できたこともよかったです。特にグラフィック。KIKO KOSTADINOVにはブランドロゴのグラフィックがないので、ローラとディアナにとって、グラフィックを提案するのはとても面白かったと思います。
ローラ:
ロゴの最初のアイデアを見たとき、こんなにもアイコニックなグラフィックがKIKOの名前で出来るなんて! と心が踊りました。
ディアナ:
本当に私たちをオープンにしてくれました。とても楽しかったです。デニムのプリントに取りかかる前に、ロゴがどれくらいの大きさで、どのように配置され、どのような色にすべきかを長い間検討しました。ヒスのカラーパレットやテクスチャーは、とても楽しくて、いろいろなアイデアが浮かんできました。だから、アイデアを一度まとめて、本当にやりたいことだけに集中しなければならなかった。それが唯一大変でしたね(笑)。
ーロージーのフォトエッセイブックはどのようにして生まれましたか?
キコ:
洋服から離れ、アーティストについての純粋な写真集にしたかったんです。写真集を見ると、キャンペーン写真とは違うことが分かってもらえると思います。ロージーの視点を尊重した、とても自然なものです。僕たちはただ、ロージーに彼女がやりたいことをやってほしかった。このブックは、カルチャーを繋ぐという意味でとても重要でした。ブックがあることで、基礎ができたとも言えると思います。新しい世代にヒスのパブリシャーとしての側面を紹介したかったし、個人的にも重要なことでした。今回のウィメンズウェアのデザインは、全てローラとディアナのディレクションで行なわれ、僕は参加していないので、ロージーのように対話ができる人を起用したかったんです。女性のフォトグラファーが参加するということも重要でしたね。それから、ロージーがアメリカやイギリスで社会的にリサーチをしていることも大切でした。
ブックとシューズが、このプロジェクトを次のレベルへと導いてくれると考えています。それらを通してでしか繋がることのできないオーディエンスがたくさんいますからね。本を好きな人たちは、ある種のマニアックな人たちです。だから、ただ本が好きなだけの人にとって、ファッションはトゥーマッチかもしれません。でも本を通してならこのプロジェクトの一員になることができます。スニーカーが好きな人も同じです。今回のスニーカーは、より女性をターゲットにしていますが、大きめのサイズも作りました。これもまたローラやディアナの過去のデザインをベースに、いかに小さいサイズのカッコいいスニーカーを手に入れるのが難しいか、ということを視野に入れながら作ったんです。だから他の方法では繋がることのできなかった人たちからのフィードバックがたくさんあると思います。服、ブック、シューズ。すべてが本当に美しい形で揃ったと思っています。
Pretty Hurts by Rosie Marks
DOVER STREET MARKET にて発売中。
ー最後に、もうこの世にいないけど、一緒にコラボレーションできたらいいなと思う人をそれぞれ教えてもらえますか。
キコ:
個人的には、セレブリティにはあまり興味がなくて。僕が尊敬している人たちのほとんどは生きていますからね。でも、尊敬している人と一緒に仕事をしない方がいい場合もあるかもしれません。その人の性格もわからないし、一緒に何かをするには相手も同じ気持ちでないといけませんから。
ロージー:
私も同じような考えですど、もし選ぶなら、噴火前のポンペイに住んでいた人とかがいいかなと思います。他の誰かの人生を体験できるような気がするので。
キコ:
でも、コラボレーションしないといけないんだよ。彼らの時代にはカメラはなかったでしょ(笑)?
ロージー:
それなら私は彫刻を彫る。
キコ:
カメラで彫るつもり(笑)?
ロージー:
彼らは人々の生活の様子についての彫刻を彫ってたでしょう。それなら私たちも一緒に彫ることができるんじゃないかな(笑)。
ディアナ:
ロージーと同じような感じで、私はハリウッドの銀幕スタッフにとても興味があります。なぜなら、彼らは今のリアリティスターとは違い、ソーシャルメディアを使っていなかったので、彼らと話すと全く別の世界にいるような気分になるんじゃないかと思うんです。それで、ミューズという概念について語りたい。デザインをする人間として、どんな女性が着るのか、どんな女性を理想としているのか、そしてミューズは誰なのか、というような質問をよく受けますが、私は常にさまざまな女性のさまざまな側面からインスピレーションを得ていると思います。ローラにとっても私にとっても、それは一人の人間ではありません。なので40年代や50年代の銀幕のスタッフやミュージシャンが、その概念について何を思うのか興味深いですね。
ローラ:
デザイナーとのコラボレーションを考えるなら、戦時中の人々でしょうか。 なぜなら、戦時中にファッションは劇的に変化したからです。男性たちが兵役で自分の仕事を放棄せざるをえなくなり、代わりに女性がステップアップしてより多くのデザインを手がけるようになったんです。彼女たちと仕事をしてみたいですね。
北村:
ジム・モリソンとカラオケがしたいかな(笑)。
KIKO KOSTADINOV × HYSTERIC GLAMOUR のコラボ商品発売中。
KIKO KOSTADINOV(キコ・コスタディノフ)
ロンドンを拠点とするキコ・コスタディノフは、各方面から高い評価を受けているメンズウェアデザイナーです。セントラル・セント・マーチンズでファッションデザインを学んだ後、2016年6月にデビューコレクションを発表。2018年にはASICSとのコラボレーションシューズを発表致しました。同年9月には双子の姉妹Laura Fanning(ローラ・ファニング)とDeanna Fanning(ディアナ・ファニング)がデザイナーを務めるKIKO KOSTADINOVのウィメンズウェアコレクションをスタート。オーストラリア・メルボルン出身の彼女達はウィメンズウェアとニットウェアをバックグラウンドに、セントラル・セント・マーチンズの2018年卒業コレクションより2人の制作が始まりました。革新的なカッティングやシルエット、エンジニアリングされたニットウェアを取り入れたアプローチで、フューチャリズムとクラフトを融合させ、ウィメンズウェアに独自の視点を生み出しています。
北村信彦
1962年生まれ。東京モード学園を卒業し、「ヒステリックグラマー」のデザイナーとして活躍。1960年代後半〜80年代前半のカルチャーを中心に、ロックやアートを洋服として表現。ファッションのみならず、森山大道の作品集の発行など、洋服という枠に収まらない表現を行っている。