
〈HYSTERIC BOOTLEG〉シリーズの第3弾がついに始動! デザイナーSYUNKIが、韓国人アーティストのAPROを招き、One and Onlyなウェアを合作。同世代でもある2人が切磋琢磨して手がけた制作秘話や、アートとファッションの融合をどう感じて表現しているのか、次世代を担う2人のディープな話に迫ります!
Interview & Text: Hiroshi Kagiyama
――今回、HYSTERIC BOOTLEGの第3弾ということで、前回のBOOTLEGシリーズから約1年が過ぎましたが、SYUNKIさんはその間、どういった活動をしてきましたか?
SYUNKI:
何かをリリースするということはなかったんですが、今回の準備期間として制作に時間を費やしてきました。HYSのアーカイブを掘りながら、試作しながらやってきましたが、この1年は感覚的に長かったですね。
――そうだったんですね。今回、BOOTLEGの第3弾としてSYUNKIさんがAPROさんをお声がけしたということですが、お二人はどんなきっかけで知り合ったんですか?

SYUNKI:
APROが3ヶ月ぐらい前に日本に来た時に知り合ったんですが、その時、1ヶ月ぐらい東京にいたので、そこで一緒に作品を作り始めたんですよ。APROがキャンバスに絵を描いて、僕がそのキャンバスに手刺しゅうを入れて、さらに僕の相方がそこにグラフィックを乗せて。その作品ってなんで作り始めたんだっけ…?
APRO:
最初は、楽しいからっていう遊びの感覚で2人で作品を作り始めたんだよね。
SYUNKI:
その中で、次に何か一緒にやろうという話になりました。そこで、僕が服づくりをしていることもあって、今回の〈HYSTERIC BOOTLEG〉の服づくりに誘ったんです。
――APROさんは、SYUNKIさんに出会った時、どんな印象でしたか?
APRO:
クレイジー、という印象でした(笑)。服のことはよくわからないんですが、SYUNKIとはエナジーが一緒だと感じたので、リラックスしながら一緒にものづくりできていること自体が楽しいです。
SYUNKI:
僕は2001年生まれなんですが、APROも同じ世代ですしね。僕としては、幼い頃から絵描きという職業にずっと憧れがあって、でも自分にはできないので、尊敬できる職業というか。同じ世代で絵描きの人とずっと出会いたいと思っていたので、それがすごく嬉しいです。APROはどんなきっかけで、今の作品のスタイルを見出したの?

APRO:
幼い頃から絵を描くことが普通だったから、描く時に考えてなくて、自然に導かれたというか…。今の「赤ちゃん」のようなキャラクターはだいぶ前から描き始めて、ずっと描いているんだけど、だいぶ前に〈ジバンシー〉がストリートアーティストとコラボしているのを見て、自分にもエアブラシができるんじゃないかと思って、最初はエアブラシで描き始めたんだよね。今はアクリルペイントで描いているけど、下書きでペンを使ってレイアウトを決めてからペイントしていく、というやり方。
――そういう出会いだったんですね。今回のプロジェクトのテーマである「BOOTLEG」は、お2人からするとどんな魅力や可能性があると感じていますか?
SYUNKI:
僕にとって「BOOTLEG」の企画は、そのブランドが公認で切ったり貼ったり新しいものに作り変えること自体がまだまだ他に見当たらないと感じていて。ただ、リメイクというカルチャーは世の中にも浸透してきている感覚もありますが、僕らの世代にとっては今後もしかしたらデザインとして当たり前のカルチャーになるのでは、とも想像しているんです。たとえば、ラグジュアリーブランドが自分たちの服を解体して新しい服に作り変える時代が近いかもしれない、と感じていたり。そういう意味で、僕らの世代でBOOTLEGをやることが面白いんじゃないかなと思っています。
APRO:
SYUNKIのその発想は僕も賛成です。今回、〈HYSTERIC BOOTLEG〉の企画のために描いた作品は、70年代に〈セディショナリーズ〉が某キャラクターを使ったパロディのTシャツがあって、そこからインスピレーションを得て描きました。
――そう言われると、そのバックグランドが見えてきます。SYUNKIさんが過去のアーカイブを再解釈する中で、今回特に印象に残っているアイテムやモチーフは?
SYUNKI:
レザージャケットは、APROが先にペイント作品を直に描いてくれたものを送ってもらってから、僕がワッペンとスタッズでカスタムしていったんですが、一点ものという意味合いが最も強い作品だと思います。ただ、今回はプリントもテーマのひとつにしているんです。そのレザージャケットのような、いわゆる一点ものと、プリントTシャツのように量産で用いる手法で一点ものを作っていくもの。今回は、そんな対極な表現をしたかったんです。APROに描き下ろしてもらったキャンバスのペイント作品を、CMYKに特色分解して、それをシルクスクリーンで重ねてプリント表現したんですが、あくまで機械ではなく職人さんがシルクを手刷りして量産していく。量産はするけど、クリエイティブな人力と、職人さんのような手作業がないと成立しないという、そんな対照的なことを融合させるのが面白いなと思ったんです。今回のイベントに来てくれる人たちには、そういうものづくりの点にも着目してもらいたいですね。
APRO:
僕もそこに興味があります。このキャンバスの作品は、ディテールを描く部分が多かったこともあって、仕上げに2週間かかりました。あとは、今回手がけたレザージャケットとか服の生地に描くという点では、いつものキャンバスとは全然違う感覚だったんですが、僕の母が、趣味で私物のレザーバッグに絵や名前を描いていたりするんですよ。もともと描いたりカスタムすることが好きな母なので、それを見て影響を受けて育ったこともあると思います。

――アートとファッションは、日本国内においてはまだまだ断絶されているようにも思えるんですが、お二人にはどう感じていますか?
SYUNKI:
服は生活に必要なものだけど、絵はいわゆる機能的な用途が基本的にはないので、服とアートってそこが一番違う点だと思いますが。〈HYSTERIC BOOTLEG〉では、着られるものでアートであるもの、それが1点しかない、というコンセプトなので。そういう意味ではアートピースの要素も含んでいるし、アートとファッションの関係性を近づけたシリーズなのかなと思っています。韓国ではアートとファッションってもっと断絶されているよね?
APRO:
僕は引きこもりなので、韓国のシーンがどうなのか、よくわからないけど…。
SYUNKI:
(笑)。そういう意味では、HYSは80年代からアートとファッションをいち早く融合している、というところも好きな部分なので。

――今回のイベントでは、音楽もひとつの要素になっているとお聞きしましたが。
SYUNKI:
APROが前に1ヶ月東京にいる間に毎日ずっと一緒にいたので、お互いの好きなカルチャーの話もいろいろしましたが、APROはかなりの数の映画を観ているし、音楽はジャズとかも詳しいし、僕よりも聴いている音楽の幅が広いです。同世代で、そういう話が深くできる友達が少ないので、彼からその面でも学ばせてもらっています。
APRO:
60〜80年代のサイケデリックな映画が、作品を描くうえでの最初のインスピレーションにあります。音楽もいろいろ聴くので、音を聴いたバイブスでいつも絵を描いています。
SYUNKI:
APROは最近のK-POPとかも聴いているし、そういうアーティストの衣装も手がけていたり、音楽に近い仕事もしています。それこそ、HYSがコラボレーションしていた2NE1のCLの衣装に作品を描いたりもしていますしね。
――そうなんですね。それ以外に、APROさんはどんなプロジェクトを行ってきましたか?
APRO:
最初は、インフルエンサーのイアン・コナーが僕の作品を見つけてくれて、〈SICKO〉という彼のブランドのデザインを始めました。その後、NBA選手のボル・ボルのファッションブランドを担当したり、日本の〈AFB〉とのコラボレーションも行ってきました。
SYUNKI:
さっき話したように、APROはアーティストたちの衣装もデザインしていますしね。
――では、APROさんは、HYSに対してはどんな印象をお持ちですか?
APRO:
60年代のポルノグラフィティのアートとかの印象があるんですが、それは僕の作品づくりとしても女性像とアートがインスピレーションとしてあるからかもしれません。
――今回のBOOTLEGのプロジェクトと作品、イベントとして、二人が伝えたいメッセージはどんな点でしょうか?

SYUNKI:
僕らの世代的には、たとえば少し上の先輩や少し下の世代の人たちの中で、グラフィックアートをプリントTシャツとかで大量生産したような取り組みをして、人気が出たことで、前よりも世間的にはアートが身近になったことで認知が広がったとは思います。でも、単にプリンタで出したようなもので、どこかにコピーされ続けていくようなTシャツを作っても、結局は何にもならないし、その先がないので。僕としては、それとは絶対的に違う表現をしていきたいです。その中で、BOOTLEGのプロジェクトを見てもらうきっかけとして、今回はあえて同じ柄のシルクプリントのTシャツも作るんですが、お店で買った人がグラフィックを追加できるように、好きな絵柄を選んでその場で刷る、カスタムできるイベントにします。
――ライブでプリントできるオプションサービスは面白いですね。
APRO:
来た人たちに、たくさん買ってもらいたいです(笑)。
SYUNKI:
最後に、APROにひとつ聞きたいんだけど、今後はどうなっていきたいと思っている?
APRO:
アートと仕事を両立しながら、ただ基礎は変えずにこれからもずっと描いていきたい。ちなみに、SYUNKIに聞きたいんだけど、一緒に制作している最中はずっとふざけたりしていて仕事している感じがしないのに、どうしてデッドラインには間に合うの? いつどこで作業しているのか、不思議なんだけど。
SYUNKI:
どうだろう…プライベートとの境目がないというか、作っていると楽しくなっているからだと思うんだけど。
――それは、SYUNKIさんがデザイナーで、APROさんがアーティストなので、お互いの職業の感覚的な違いなのかもしれないですね。お二人ともありがとうございました!

SYUNKI
2001年、東京生まれ。10代前半から裏原宿のファッションシーンに魅了され、洋服制作の基礎を学び、自主制作を始める。スタイリストとしても活動を開始。2019 年にこれらの経験を活かし、英国文化やカウンターカルチャーに通ずる洋服作りを中心としたブランド〈JANCHY〉を立ち上げる。2022年、〈CIRCLE HERITAGE〉を設立し、翌23年の春夏シーズンからデビュー。2023年からは、HYSの膨大なアーカイブを用い、解体・新たに構築し直した〈HYSTERIC BOOTLEG〉を、ブランドオフィシャルのシリーズとして手がけている。

APRO
韓国出⾝のアーティスト/画家。現在は韓国を拠点に、ペインティングを中⼼に多様な表現活動を⾏う。エアブラシを駆使した絵や、サイケデリックな⾊彩と独特な質感、そしてアイコニックな「⾚ちゃん」のキャラクターをモチーフにした作品群で知られる。これらのキャラクターは、無垢さと不穏さ、可愛さと危うさといった、APRO独⾃のユーモアや社会への視線が垣間⾒える。また、ファッションや⾳楽、カルチャーシーンとも密接に関わっている。これまでにイアン・コナー率いるブランド〈SICKO〉チームでのデザイン、NBA選⼿のBOLBOL率いるアパレルチーム〈Brenda〉、韓国の次世代グローバルアイドル「XG」の⾐装デザイン、⽇本のストリートブランド〈AFB〉とのコラボレーションなど、国際的なプロジェクトにも多数参加。ジャンルや国境を超えて、独⾃のビジュアル⾔語を発信し続けている。日本人女性と結婚することを夢見て、絶賛彼女募集中。