〈CIRCLE HERITAGE〉の若きデザイナーSYUNKIが、
スタイリスト馬場圭介と北村信彦との出会いから生み出した、〈HYSTERIC BOOTLEG〉とは?
ファッションブランドCIRCLE HERITAGEデザイナーSYUNKIとのコラボプロジェクト「HYSTERIC BOOTLEG」。SYUNKIが、スタイリスト馬場圭介と北村信彦との出会いから生み出した〈HYSTERIC BOOTLEG〉について3名のインタビューをお届けします。
Photos: Minami Sakamoto
Interview & Text: Hiroshi Kagiyama
CIRCLE HERITAGE
CIRCLE HERITAGE は 2022 年に SYUNKI によって設立されたブランド。
2023SS シーズンデビュー。バッジを主軸にしたデザインが特徴。70 年代から 80 年代の PUNK カルチャーと 90 年代の裏原宿から受けたインスピレーションを背景にデザイン・リメイク商品を毎シーズン作っていく。
―今回の〈HYSTERIC BOOTLEG〉のプロジェクトは、馬場さんがそのきっかけを作ってくださったとお聞きしましたが、どんな経緯だったんですか?
馬場圭介(※以下、馬場):
SYUNKIが19歳ぐらいの時かな、うちの古着屋(COUNCIL FLAT 1)に来て、面白そうな奴だなと思って話しかけたら、「文化(服装学院)の学生です」って言うので、それからしょっちゅう店に来てくれるようになって、なついてくれたんだよね。洋服が好きで興味持っているから、ノブとか〈アンダーカバー〉のジョニオを紹介したら、仲良くなっていったんだよ。
SYUNKI:
僕は90年代の雑誌が好きで、集めて読んだりしていたので、馬場さんのことは一方的によく知っていました。当時、馬場さんが金色の〈ジョージ・コックス〉を履いていたり、サッカーマフラーとかを合わせて着ていたのを雑誌で見て、不思議な格好だけど、イギリスっぽいというか。憧れがあってお店に行ったのが最初でした。
―それからノブさんを紹介されたんですね。HYSやノブさんのことは、どんな印象でしたか?
SYUNKI:
僕も〈ヒステリックグラマー〉の服を着させてもらっていたので、ノブさんのことはもちろん知っていて、当時はHYSの(渋谷の)明治通りにあるお店に行ったりしていました。今22歳なんですが、文化に入る前ぐらいの高校生の頃ですね。
―対して、ノブさんから見て、SYUNKIさんはどんな印象でしたか?
北村信彦(※以下、北村):
最初会った時は、酔っぱらってたからね(笑)。
SYUNKI:
「なるきよ」さん(青山の和食店)のところでしたよね。
北村:
そうだったね。馬場ちゃんから「SYUNKIは学生だけどかわいがってあげてよ」って紹介されて、話をしていたら、腕にジョニオと同じタトゥーを色違いで入れてたんだよね。「真似しました」って言うから、クラブでジョニオに紹介して、2人の腕のタトゥーを並べて写真撮ってあげたんだよ。馬場ちゃんから頼まれた(SYUNKIさんにジョニオさんを紹介する)ことも済んだから、そこで俺の役目は完了。そう思ったんだけど、その後もよく会うようになったんだ。若い世代なのに古いカルチャーに興味を持っていること自体が珍しいでしょ。SYUNKIといろいろと話してみると、自分たちの若い頃の感性に似てるな、と思ったんだよね。
―その出会いが4〜5年前ということですね。その後、SYUNKIさんはご自身のブランド〈CIRCLE HERITAGE〉をいつ頃から始められたんですか?
SYUNKI:
〈CIRCLE HERITAGE〉は2023 S/Sからスタートしました。
馬場:
その前から、別のブランドをやり始めていたんだよね。
北村:
SYUNKIが定期的にうちの事務所に遊びに来るようになって、文化もコロナで閉鎖しちゃったから「自分で何か始めます」とか言って、学校も辞めちゃったんだよね?
SYUNKI:
学校の授業が半年ぐらいなかったので、それで辞めちゃった感じですね。その頃に〈JANCHY〉ってブランドを友達と始めて、展示会もやりました。〈JANCHY〉では、サッカーシャツとかを途中まで工場で作ってもらって、そこから自分たちでプリントしたり、ワッペンを貼ったり、ということから始めました。
―そうだったんですね。SYUNKIさんの世代は、カルチャー的にはヒップホップが主流だと思いますが、そんな中でご自身はパンクに熱中されていらっしゃるのは、どんなきっかけから傾倒していったんですか?
SYUNKI:
僕は音楽から入りました。親が馬場さんとかノブさんよりも年下ですが、Hi-STANDARDとかが好きで、特に90年代の日本のメロディックコアが多かったんですが、家にCDとかレコードがあったので自然に聴いていました。でも、僕が普段遊ぶ友達は、ほとんどの人がパンクのことを知らなくて、みんなヒップホップが好きだったりもするんですけど。
北村:
レイジ(OKAMOTO’S)の世代ですらそうだったらしい。60年代のロックの話しをしているのは同世代でも彼らだけだった、ってレイジから聞いたことがある。レイジとは彼が18歳ぐらいの時に出会ったんだけど、音楽に詳しくて、いきなり村八分のこととか話してきて、びっくりしたのを思い出すよ。
SYUNKI:
僕もレイジくんとは仲良くさせてもらっているんですけど、本当に詳しいですよね。
―では、〈CIRCLE HERITAGE〉の服では、パンクというカルチャーを、たとえば音楽/ファッション/デザイン/精神性などに細分化すると、どんな面に惹かれていったんですか?
SYUNKI:
服づくりに関しては、音を感じられるものを作ろうという思いはありますけど、パンクなものを作ろうというよりかは、純粋にファッションが好きで服を作っている感じですね。
―そうなんですね。パンクムーブメントが巻き起こった1970年後半を、10代のリアルタイムで体験している馬場さんとノブさんにとって、SYUNKIさんの服づくりを見て、どう感じられますか?
馬場:
世界的にパンクムーブメントが全盛になったのは、79年とかだよね。SYUNKIは好きなことをやっているし、こうしたほうがいいよとか一切ないし、自由ですよ。良いか悪いか、好きか嫌いか、どっちかだけだから。
北村:
俺も84年にブランドを始めた時は、どうも当時の主流の音楽とかファッションに馴染めなかったから、好きだった60〜70年代のカルチャーを掘って服を作り始めたんだよね。SYUNKIもそうなんじゃないのかな。学校で義務化されてヒップホップダンスとかやっているような時代だけど、その輪に入るよりも、ひとりパンク聴いているわけでしょ?
SYUNKI:
そうですね。
北村:
俺たちの周りで、いまだに現役で仕事している連中って、みんなどこか時代の主流にアゲインストな力を持っているから、今もやってこれているんじゃないかな。時代の流行りに沿ってやってきて、自分の世界観を持っている人なんて見たことないから。
馬場:
よく言えば反骨、悪く言えばヘソ曲がり(笑)。
北村:
川久保(玲)さんも、反骨のスピリットがなくなったら自分はモノを作れなくなる、って言ってるように、年齢じゃないんだよ。それを反動で何かすることがカウンターカルチャー。世間が言うサブカルチャーってことだから。
馬場:
今は世間一般でサブカルがメインになってきているからね。
北村:
服にスタッズを打っているだけで、パンク、とか言われたり、ダブルのライダーズを着てパンクっぽくしてみました、っていう解釈にされてしまっている世の中なんだよ。
SYUNKI:
本当にそうですね。「なんとかっぽい」だけで、カルチャーとして捉えられてしまっているので。
馬場:
見た目だけの話になっているよね。
―今のメディアでは、表層的なことのほうが、もてはやしやすいんですかね。
北村:
たとえばテレビとかも、ジャーナリズムや脚本家が低迷していて、面白い番組が作れなくなっているからね。挙げ句の果てには、「日本メロンパン巡り」とかを芸人たちがやって、番組が成立しているわけでしょ? その情報が全世界に流れているから、今、海外から日本に来た外国人たちもその情報でメロンパン巡りしている時代なんだよ。
一同:
爆笑!
北村:
俺たちが海外に行っていた時代って、どこに行ったらヴィンテージのポスターとかポルノマガジンが買えるんだろう? って歩き回ってたわけだから。
―足で稼ぐのが旅の基本ですよね。SYUNKIさんはそんなふうに、自分のネタ探しでどこか巡ったりしますか?
SYUNKI:
もともと古着が好きなので、原宿とか高円寺の古着屋を回ったりもしています。昔は、ひたすら「ブックオフ」のいろんな店舗を回っていました。「ブックオフ」はグラム単位で服の買い取りをしているので、とんでもない安い値段で掘り出し物が売っていたりすることがあるので、バイクに乗って探しに行っていました。
北村:
そうなんだ。俺とか馬場ちゃんが10〜20代の頃にも古着屋はあったけど、まだ「ヴィンテージ」って言われ方はしていなかったよね。
馬場:
古着は古着、だったもんね。
―スリフトショップみたいなことだったんですね。
北村:
あの頃は、今でいうヴィンテージの501とか50年代のスウェットとか、バンドもののTシャツとかもまだゴロゴロしていて、数千円で買えていたからね。何年か前に、裏原の「DEPT」で、eriちゃん(DEPT創始者の永井誠治さんのご息女)が古着屋を復活させた時があって、彼女の感覚で集めてきた古着は、60〜70年代のものもあったんだけど、誠治さんがそれを見て、自分では絶対に仕入れないような古着を集めてきていたわけ。俺たちが着ないような古着を、若い人たちはハイブリッドに着こなしているよね。その感覚は、俺たちの時代には誰も持っていなかった。SYUNKIとか今の若い人たちは、ブランドとか価値を関係ナシに、センスよく着こなすカッコいい子がたくさんいるよね。
SYUNKI:
1点ものを探す感覚ですね。
―その感覚は、SYUNKIさんと当時のノブさんたちと似ているのかもしれませんね。
SYUNKI:
元々は、今回の〈HYSTERIC BOOTLEG〉の前のシーズンに、〈CIRCLE HERITAGE〉でMA-1を作りたくて、ノブさんにそのボディの相談をしたら、「HYSのボディを使ってやってみたら?」って話してくれたんです。
北村:
最初は〈CIRCLE HERITAGE〉の展示会で、HYSとのコラボ名義でうちのボディを使ったMA-1を発表してくれて。その後、SYUNKIから「HYSの服をカスタムさせてください」って相談されたから、だったらHYSTERIC公認のカスタムブートレグってことにして、〈HYSTERIC BOOTLEG〉というプロジェクトにするのが面白いよね、と話しが進んだんだよ。
―そんな流れから〈HYSTERIC BOOTLEG〉が実現したんですね。服のデザインはSYUNKIさんが手がけられているんですか?
SYUNKI:
僕ともうひとり縫製の人で、HYSの過去の服のリストを見せてもらって、1点1点選ぶことから始めました。基本的にはまず服を全部解体して、生地に近い状態にしました。リブとか袖とか、使えるものはそのまま使うこともありますが、そこから僕が再構築した服を、1点もので作りました。もとのHYSの服の年代はばらばらで、ワッペンとかは明らかに90年代の初期のものもありました。HYSでは作らなそうなもの、という点は意識して作りました。あとは、僕が普段、ほとんどモノトーンのベースカラーの服しか作らないので、初めてカラフルな感じに仕上げてみました。
北村:
SYUNKIが俺の過去のデッサンとか、HYSの昔のポストカードとかを見て、ケータイで写真を撮っていくんだけど、それをSYUNKIがフォトショップとかイラストレータでイジって版下にしてくるものが、良いんだよ。俺が30年以上前に、コピー機で刷ったり手描きしたグラフィックを、当時の自分と同じぐらいの歳のSYUNKIが、データ上で遊んでくれたことで、HYSの素材なのに、まったく違う形に変身することが面白いなって思った。でも、パンクほど古臭くもなく、ハイブリッドパンクとかハイブリッドニューウェーブな感じがして、今の若い子たちが着こなしそうな感じで、いいよね。
―もともと当時のパンクスが、たとえば新聞の政治的なキャッチコピーを切り貼りして何かを作ったりしていたことと似ているプロセスですよね。
馬場:
そうだね、80年代だね。
北村:
再構築する、みたいなね。俺的にも、どこか新鮮。初心に戻れたし、すごくよかった。
馬場:
タイミングって大事だよね。面白い。
北村:
HYSは来年40周年で、言ってみれば、おじいちゃんブランドみたいなことだよな、と思っていた矢先に、自分の孫でもおかしくない年齢のSYUNKIたちとツルむっていうのも、先輩後輩とかって感覚ではないんだよね。孫だから、一緒にキャピキャピできるというか。息子の世代とは無理だけど、孫とだったらパフェ食えるかな、っていう(笑)。
一同:
爆笑!
SYUNKI:
たとえば、ジョニオさんの娘さん(モデルのLala Takahashi)とかも僕と同い年だったり、業界の人たちの息子と娘が自分と同じ世代なので。
馬場:
若い人たちの時代ですよ。しかも、流行に流れないヘソ曲がりの人が面白い。
北村:
実際は今の世代の連中が、何かしらのアクションを自由に起こしてくれることが、東京のシーンにとってもありがたいし、そのために俺たちはサポートする側で、だんだん楽しくなり始めている。
―SYUNKIさんのように、反骨精神のある若いクリエイターの人たちが、ファッション業界を面白くしてくれることに期待しています! 今日はありがとうございました!
HYSTERIC BOOTLEG
ファッションブランドCIRCLE HERITAGEデザイナーSYUNKIとのコラボプロジェクト。
コンセプトは 「カスタムブートレグ」。2023年10月28日(土)に第1弾を発表。
Z世代を代表するデザイナーであり業界の重鎮スタイリストや高感度ショップからも強い支持を得るSYUNKIの独創的なセンスでHYSTERIC GLMAOURの過去アーカイブを分解し1点ものの作品として再構築している。
好きな音楽やカルチャーで結ばれた感性の近しい両者が生み出すコラボレーションは世代を超えた普遍的なデザインへのリスペクトとオリジナルへの深い理解や愛情を感じさせる。
SYUNKI
2001 年、東京生まれ。
10 代前半から裏原宿のファッションシーンに魅了され、洋服制作の基礎を学び、自主制作を始める。
スタイリストとしても活動を開始。
2019 年にこれらの経験を活かし、英国文化やカウンターカルチャーに通ずる洋服作りを中心としたブランド「JANCHY」を立ち上げる。
2022 年「CIRCLE HERITAGE」を設立。
翌年、春夏よりシーズンデビュー。
馬場 圭介
スタイリスト
1958 年 熊本生まれ。
1986 年 28 歳で渡英。
1988 年 帰国。スタイリスト大久保篤志に師事。
1989 年 独立。
2004 年 nano universe と始めたブランド 「GB」 のディレクターとデザイナーを兼任。
2011 年 自身がディレクターを務めるブランド 「ENGLATAILOR by GB」 をスタート。
2014 年 東京の英国好き達が集まれる場所として隔月第4木曜日に“ROYAL WARRANT SOCIETY”を主宰。
2018 年 英国古着を扱うショップ「Council Flat 1」をオープンしオーナーも務める。
2019 年 ブランド「NORMAN」スタート。
2020 年 YouTube チャンネル ”BABA Chang-Nel” 開設。
2022 年 ブランド「NORMAN」改め、ブランド名「BABA」にて再始動。
また、コラボレーションに特化したブランド「GB by BABA」、略して「GB/ジービー」も
スタート。
現在も数多くの雑誌、ミュージシャン、俳優、タレントのスタイリングを勤める。
Instagram
北村 信彦
1962年東京生まれ。
東京モード学園を卒業した 1984 年、(株)オゾンコミュニティに入社。
同年、21 歳で HYSTERIC GLAMOUR をスタート。
10代半ばから猛烈にアディクトするロックミュージックを礎に、ブランド設立当初ロックとフ ァッションの融合をいち早く見出したコレクションを提案。
ソニック・ユースやプライマル・スクリーム、パティ・スミス、コートニー・ラブをはじめとして数多なアーティストたちと親交を深める。
一方、ポルノグラフィティやコンテンポラリーアートなどにも傾倒、その感性はHYSTERIC GLAMOUR の代名詞の1つでもある T シャツでも表現している。
また、テリー・リチャードソンや森山大道、荒木経惟をはじめとする写真作家の作品集を自主制作・出版するなど、現代写真界にも深く携わる。