ロックの黄金時代をリアルタイムで体験してきた、米原康正氏(写真左)と北村信彦(写真右)。
前回に引き続き、本連載のタイトル『ROCKIN' GIRL』のテーマのもと、ロックから女の子、そしてカルチャーまで、“本物”を知る彼らならではのスペシャル対談を敢行。第二章でお送りするのは、ズバリ“グッときたロック女子”!
― 前回は、お二人が青春時代に夢中になった、スージー・クアトロやザ・ランナウェイズといったロックな女子についてお話しいただきました。引き続き、あの頃グッときた女子についてお伺いしたいと思います。
米原康正(※以下、米原) : 前回は中高生の頃の話だったけど、もう少し大人になってからはどう? グッときた女の子って当時いた?
北村信彦(※以下、北村) : 前回話したザ・ランナウェイズとかスージー・クアトロ、ブロンディのデボラ・ハリーなんかに夢中になった後は、デストロイ・オール・モンスターズのナイアガラが気になってたね。90年代以降だと、ザ・キルズのアリソン・モシャート・ヴィヴィとか、ソニック・ユースのキム・ゴードンも好きだった。
米原 : そういえば、キム・ゴードンは繋がりがあったもんね。
北村 : 80年代末~90年代の頭にニューヨークのイースト・ヴィレッジでお店をやってたんだよ。ヒステリックグラマーと現地で買ったヴィンテージをミックスした感じの。そこに、彼女やイギー・ポップがよく来てくれてたらしくて。
そんな偶然の繋がりもあって、来日した時は話が盛り上がったね。本当に嬉しかった。ただ、当時もキム・ゴードンがセクシャルな面でグッときたかって言われるとそうでもないんだけど(笑)。
米原 : 俺も同じで、好きだったけど単純に女性として見られるかっていったらやっぱり違った。その系譜でいえば、リディア・ランチは引っかかってた? まさにセックス&バイオレンスって感じだったけど。
北村 : いや、そうでもないね。性の対象ではないんだよね、やっぱり。アンディ・ウォーホルと接触があったりしてアート性もある、ノーウェーブっていわれるようなジャンルの音はすごく好きだったんだけど。そのインテリ感みたいなものって、セクシャルさの対極じゃない?
米原 : うん、確かにそうだ。ちなみにその頃、俺はプラズマティックスにドキドキしてたよ。ヴォーカルのウェンディが乳首をテープで隠してた、アレね。
北村 : 当時バンドに女の子がいるっていうだけでどこか惹かれる部分はあったよね。なんか男に囲まれてると“オンナ”が際立つっていうか。例えば、ザ・クランプスのポイズン・アイビーとか、スマッシング・パンプキンズのダーシー・レッキーとか、トム・トム・クラブのティナ・ウェイマスとか……。
米原 : うんうん。でも、ザ・ランナウェイズみたいに追いかける感じではなかったでしょ?
北村 : そうだね、別物。性の対象というより、自分の創作物のイメージソースって感じだったね。ミュージシャンじゃないけど、ケイト・モスやソフィア・コッポラなんかも俺の中ではその立ち位置。ふたりとも、運良く知り合えて来日した時に食事に行ったりしてるけど、実際に会ってもやっぱり気の合う友達みたいな感じだね。
実際、ソフィアには『ノブは高校のクラスメートで、放課後に駐車場で他愛もない話をする、話の分かる男友達みたいだ』って言われたよ(笑)。
米原 : ハハハ(笑)。ちなみに、最近のミュージシャンでも気になっている女の子はいない?
北村 : ヒステリックグラマーでコラボしたゴーストウルヴスのカーリー・ウルフは良かったよ。メンフィスにジャック・ホワイトを訪ねて行った時にマネージャーがライヴに誘ってくれて小さなライヴハウスで見たんだけど、ガーリーパワーみたいなものが溢れていて凄かったね。あとはスタークローラーのアロウ・デ・ワイルドも結構好きだなって思ったよ。パフォーマーとしてかなり良かった。彼女たちも、セクシャルな意味でのグッとくるってものではないけどね。
大人になって変わった若い女子への目線
米原 : じゃあ、創作を始めてからは“グッとくる女”ってのはいないわけだ。女子を性的に見られなくなったのって、職業病みたいなもんなのかね。いちいち現場で性的に見てたらキリがないし、仕事にならないっていうか。
俺はよく、インタビューとかで『今までで一番グッときた子は誰ですか?』なんて聞かれるけど、本当にいないもんね。
北村 : 確かに。あとは年齢的なものもあるかも。ヨネちゃん、最近若い子をお父さん的な目線で見ちゃうことない? 俺は子どもがいないんだけど、もし若い時に生んでたら今ちょうど20~30代の子どもになるわけじゃない。だから、どこか親目線みたいな気持ちで、見守ってあげたいなっていう感情が出始めてきたんだよ。若い連中と食事やクラブに行くことも多いんだけど、年の離れた友達っていう感覚とはちょっと違うなって。
米原 : そうだね、俺も若くて勢いのある子を見るとなんとか壊れないようにしてあげたいなって思う。前は一緒に壊れてもいいや、みたいな付き合い方だったけど、ちょっとお父さん感が出てきたのかな。
北村 : 今はハミ出せない時代だからね。俺らが若いときはハミ出しても大丈夫だったし、なんなら壊れてるのが格好いいって価値観もあった。不良とかジャンキーとかビッチとか、そういうハミ出した人たちに憧れたし、すべて新しくて衝撃的だったんだよね。パンクもゲイカルチャーも今じゃ受け入れられているけど、当時はやっぱり異端だったから。
米原 : あの頃のリビドーみたいなものはなくなったよね。色んなものを見るときに、そのストレートな欲望って重要なポイントだったはずなのに、年を取るにつれてだんだん消えていく感じがする……。
北村 : アハハ(笑)。ただ、当時の映像を見れば、あの頃グッときた気持ちはハッキリ思い出せるけどね。山口百恵なんか、20代なのにすごい色気があったよなぁ、とか。
米原 : あの時代の歌謡曲は特にヤバかった! 水商売ソングが多かったし。今のアイドルにはないよね。
北村 : そう考えると、グッとくる女子がいないっていうのは、時代性も大きな原因かもね。やっぱり、60~80年代のロックな女子は、セクシャルなイメージをもっと前面に出してたよ。ミュージシャンだけじゃなく、女優やモデルももっと色っぽかった。
今、ヨネちゃんから見てセクシャルなイメージを持ってる女の子っている? 俺としては、キレイとかカワイイって子はいっぱいいるけど、色っぽくてソソる子はあまりいない気がするんだけど。
米原 : そう考えるとモデルの藤井リナは色気があったね。10年前くらいに“エロカワ”っていうのが流行ったの覚えてる? その頃はエロさがかなり重要だったのよ。でも、2011年頃から“エロ”が抜けて“カワイイ”だけになって、そこからもうエロい女子は表舞台ではほとんど見なくなっちゃった。
きゃりーぱみゅぱみゅとかの所謂“カワイイ”カルチャーになっちゃったんだよね。それと、今の若い子たちはプロよりも素人志向だよね。ハッキリいうと、かわいくない子の方が人気が出る。
北村 : AKB48もそうだけど、おニャン子クラブの系譜だよね。クラスの3番目くらいの子が頑張っているのを見てドキドキしてる感じ。
米原 : そうそう。実はそれはアメリカも同じで、売れてる歌手も全然かわいくなかったりするよね。ただ、歌はきちんと上手いけど。
北村 : どこかにダメなところがないと受け入れられない時代なんだよね。いい具合にダサくなくちゃいけない。キレイすぎても、歌が上手すぎてもダメなんだよ。原石を見つけてきて、応援していくことで垢抜けて育っていく。そんなストーリーに支持が集まる時代になっている気がする。
米原 : そういえば、テレビを見ててキレイな人だな~って思うことも少なくなったよね。みんな素人みたいだなって思っちゃうよ。
北村 : そうね。あ、でも最近ちょっと気になる子はいたよ。新木優子って女優。最近、ドラマで見たんだけどいい感じだった。
米原 : えっ! ドラマとか見るの?
北村 : うん、とりあえず録画しといて朝観るんだよ。最近5時くらいに目が覚めちゃうから(笑)。
米原 : 年取ると、こうなっちゃうんだよね(笑)。
米原康正
編集者・アーティスト。東京ストリートな女子文化から影響を受け、雑誌などメディアの形で表現された作品は、90年代以降の女子アンダーグランドカルチャーを扇動した。早くから中国の影響を強く感知し、そこでいかに日本であるかをテーマに活動を展開。微博フォロワー268万人。2017年より前髪をテーマに作品を発表している。
北村信彦
1962年生まれ。東京モード学園を卒業し、「ヒステリックグラマー」のデザイナーとして活躍。1960年代後半〜80年代前半のカルチャーを中心に、ロックやアートを洋服として表現。ファッションのみならず、森山大道の作品集の発行など、洋服という枠に収まらない表現を行っている。