Talking about “BOOTLEG LP”
Johan Kugelberg & Nobuhiko Kitamura
with Natsuki Kato (Luby Sparks) PART 2
サブカル蒐集家のヨハンが取り憑かれた「ブートレグLP」とは?

1960〜80年代のROCKやPUNKのサブカルチャーから生まれた印刷物をはじめとした膨大なコレクションを蒐集し、ニューヨークのプロジェクトスペース「Boo-Hooray」を主宰するヨハン・クーゲルベルグ。北村と長年にわたり親交のある彼が、2024年にHYS40周年で行った企画展に続き、第二弾となるエキシビションを渋谷店で開催。今回は、「ブートレグのヴァイナルLP」に焦点を当てたコレクションを展示・販売。
そんなディープで激レアなカルチャーについて、展示初日のHYS渋谷店でヨハンと北村、Luby SparksのフロントマンであるNatsuki Katoが進行役に加わり、トークセッションが繰り広げられた。今回は特別に前編と後編に分けてお届けします!
Interview & Text: Hiroshi Kagiyama
Photographer : Minami Sakamoto
Translation: Natsuki Kato(Luby Sparks)
“PUNK”というワードとカルチャーが生まれた瞬間とは?
JOHAN:
JOHAN: New York Dollsが1973年にパリで演奏したとき、Sky Dog Recordsのマーク・セルマティとデイヴィッド・ヨハンソン、マルコム・マクラーレン、ニック・ケントの4人で夕食をともにした。そこで彼らは60年代のアメリカの「PUNK」と呼ばれている音楽について話したと言われているんだ。
NATSUKI:
もしかしたらそれがPUNKの始まりの一つだったかもしれないですね。
JOHAN:
PUNKの誕生についてはたくさんのタイミングがあったと思う。
NOBU:
Suicideが1972年に、世の中で最初に「PUNK」という言葉をフライヤーで打ち出したアーティストだよね。音楽的なPUNKというよりは、ミュージシャンの新しいアティテュードとしてPUNKを打ち出したんだよ。その数年後に、同じようなテイストでPUNKムーブメントが世界中で巻き起こることになるんだけど。

JOHAN:
Suicideのマーティン・レヴは60年代のロフトシーンでフリージャズを演奏していたし、アラン・ヴェガはブルックリン生まれで、50年代後半にアートスクールに通っていた。だから、Suicideが経由したニューヨークのクールなライフスタイルの潮流は、PUNKと実に深い関係性を持っている。今回の展示内容も、こういったクレイジーな時代とカルチャーの変動と流れが核にあるんだ。
僕とNOBUとは長い付き合いで、彼のセンスも知っているし、それが大好きなんだ。いつもストックの中からオリジナルのポスターや写真、フライヤーなどたくさんのものを持ってくるんだけど、それを山積みにして、NOBUが好きそうなものを選んで展示するんだ。前回の11月の展示は、HYSにとってのインスピレーションでもあるニューヨークがテーマだった。そして今回は、レーベルとしての〈HYSTERIC BOOTLEG〉からインスパイアされつつ、同時にブランドの40周年記念にもつながるような内容にしたんだ。

NOBU:
特に、ここ2年ぐらいで、世界的に若い世代がHYSのヴィンテージを探して着てくれているみたいで、個人的にはすごく嬉しいんだけど、そのヴィンテージというのが80年代〜90年代初頭のもので。たとえば、当時うちがオフィシャルで当時400枚のTシャツを作ったとして、それに対してブートレグは数千枚作っているかもしれないし、把握できていないんだ。しかも、80年代当初のブートレグは一目瞭然だけど、90年代終わりぐらいのブートレグはタグから縫製まで自分たちが見てもわからないぐらい質が上がっていた。だから、世の中の誰かは今もHYSのブートレグを気づかず買って着ていると思うと面白いけどね。
NATSUKI:
ブートレグと本物を比較しても、NOBUさんたちにもわからないぐらいクオリティが向上したということですよね。
NOBU:
うちの人間が見てもわからないぐらいだから。でも、ヴィンテージという言葉が先行しているだけで、言ってしまえば「中古」なんだけど(笑)。ヴィンテージという名目であれば何でもいい人もいるということだよね。

NATSUKI:
そうかもしれませんね。でも、なぜかライヴ音源とかデモ音源ってなぜか惹かれますよね。アンオフィシャルじゃないだけに、スタジオ音源みたいに整っていないものというか、生モノというか。
NOBU:
(スマホに入ったライヴ音源を流しながら)2004年にプライマル・スクリームのライヴを観に行ったら、BOBBYがMCで自分に対してメッセージを送ってくれたので、その3日後にブート音源を新宿のブート屋さんに探しに行ったらそのライヴ音源が売っていて。当時、観に行ったライヴのブート音源は全部買っていたから。
NATSUKI:
3日後にもう出ていたんですか!? CDが登場したことでブート化がめちゃくちゃ早まったんですね。(そのブート音源を聴いて)、音も全然悪くないんですね。
JOHAN:
完全にデジタル音源だから、ブートレグCDは2〜3日もあれば生産できるんだ。
NOBU:
PAから直接録った音源だから、日雇いのPAみたいな奴が流出させていたんだろうね。
JOHAN:
デジタル・ディストリビューションは本当に複雑だと思う。
NOBU:
ブートレグって、今でいうと、誰かがYouTubeに投稿した音をダウンロードして音源化しているような行為が行われていることだろうね。YouTube はAIで徹底的に検閲もしているけど。
“本物”に対峙した時の衝撃は、いつの時代も同じ感覚。

NATSUKI:
では、今回の展示を、HYSの若い世代のファンの人たちなどに、どんなふうに観てもらいたいですか?
JOHAN:
自分達の世代が若い頃にレコードショップに行った時と同じような体験をしてもらいたいんだ。あの時、レコードは封印されていて開けられなかったし、聴くこともできなかったけど、ジャケットを見て夢中になって、ジャケットの裏を見ると、The Crampsが好きなアーティスト名が書いてあって、それを一生懸命メモに書き留めたり、Iggy PopはJ.G.Ballardが大好きで、じゃあ次はJ.G.Ballardが誰なのか知らなきゃいけなかったり。
そしてNOBUも同じようにこの道40年のマスターだからね。「HYSのTシャツがほしい、かっこよくなりたい、女のコにもてたい」というキッズやファンたちが、じゃあそのTシャツにプリントされたかっこいい女のコは誰なんだ? とGoogleで検索すれば、そのミュージシャンや音楽に繋がるわけで。
2025年の今、残念ながらカルチャーの超分断化は決定的になってしまったけれど、“本物”に対峙した時の衝撃は100年前と同じくらい強いことだと思う。
NOBU:
ロックカルチャーってまだまだ50〜60年しか歴史がないのに、その中でかなり変化してきて、いろんな形と種類が生まれたほうだと思う。でも、その時代ごとにそれぞれ若者がいるわけで。今デジタル時代にAIが出てきて、スマホの指を動かすだけである程度は何でもできる時代だけど、今の時代なりにこういう(今回の展示のブートレグもののような)やり方があると思う。愛なのか信念なのか、軽犯罪のギリギリのところというか、そういうことがない限り、新しいムーブメントは生まれないと思う。

JOHAN:
深みが必要だね。例えば今この瞬間も、ブルックリンの地下のライヴハウスには40人のキッズたちがいて、みんな酔っ払ってハイになっているかもしれない。そのステージでは、1964年のThe Kinksを劣化させたようなバンドが演奏しているけど、みんな飛び跳ねて、ビールをかけあったり、誰かが吐いてたり、トイレで泣いたり。だから、1964年のThe Kinksと今もなんら変わりない。でも、そこではみんな今のリアルな人生経験を積んでいて、そこがミステリアスでも面白いところでもあるんだ。
たとえば、昔からずっと好きだったアーティストのライヴを観に行くと、もう歳をとっていて、演奏もうまくなってはいるけど、昔と違ってあまり良くない。それでも、そういう音楽は18歳の頃に初めてThe Stoogesを聴いた時の衝撃や気持ちを忘れさせないし、結局は変わらず大好きなものなんだよ。
ROCKはこれほど若さが重要な芸術形態でありながら、明らかにまだ死んでいないし、これからも死ぬことはないと思う。ストーンズのメンバーが全員死のうと、The Beatlesが誰もいなくなろうとね。彼らの音楽は今も不滅でパワフルであり続けている。
だから、正真正銘のカルチャーの体験が持つ二元性の根本には、“本物”にしか成し得ない何かがあると信じているよ。
NATSUKI:
今回のブートレグLPのように、そこに収録されている過去のライヴやスタジオ音源からは、当時のROCKの熱気や感情までもが伝わってきますよね。そういった"本物"のカルチャーやムーブメントと邂逅した時の衝撃を今でも追体験できる、一つの方法かもしれませんね。ありがとうございました!
――前編(PART1)はこちら

Johan Kugelberg
ヨハン・クーゲルベルグはニューヨーク在住のキュレーター、作家、アーキビスト。
レアブック・スクール教授。スクール教授。
主な著書に ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・ニューヨーク・アート『Punk An Aesthetic』(ジョン・サヴェージとの共著、Rizzoli刊)、 『True Norwegian Black Metal』(Vice)、『Beauty is in The Street』(Four Corners)。
また、ポップカルチャーの分野で数多くのアーカイブを手がける。
イェール・パンク・アーカイヴ、コーネル・ヒップホップ・アーカイヴを設立。
コーネル・ヒップホップ・アーカイブ、ニューヨーク公共図書館ファブ・ファイブフレディ・アーカイブなどを設立。

Luby Sparks
Natsuki (ba/vo) Erika (vo) Sunao (gt) Tamio (gt) Shin (dr)。
2016年3月結成。2018年1月、Max Bloom (Yuck) と全編ロンドンで制作したデビューアルバム「Luby Sparks」を発売。2019年9月に発表したシングル「Somewhere」では、Cocteau TwinsのRobin Guthrieによるリミックスもリリースされた。2022年5月11日にMy Bloody Valentine、Rina Sawayamaなどのプロデュース/エンジニアを手掛けるAndy Savoursを共同プロデューサーに迎え、セカンド・アルバム「Search + Destroy」をリリース。同年6月には、初のワンマンライブ「Search + Destroy Live」(WWW X) も行い、ソールドアウトとなった。10月にはタイでの海外公演、2023年3月全米7都市にて「US Tour 2023」、9月「Strawberry Music Festival 2023」を含む中国全7都市「China Tour 2023」、10月韓国、11月インドネシア「Joyland Festival」へ出演を行うなど海外での展開も積極的に行なっている。
2024年5月にリリースした「Songs for The Daydreamers」EPに続き、2025年1月24日にも「Songs of The Hazy Memories」EPをリリース。

北村 信彦
Designer
1962年東京生まれ。
東京モード学園を卒業した 1984 年、(株)オゾンコミュニティに入社。
同年、21 歳で HYSTERIC GLAMOUR をスタート。
10代半ばから猛烈にアディクトするロックミュージックを礎に、ブランド設立当初ロックとフ ァッションの融合をいち早く見出したコレクションを提案。
ソニック・ユースやプライマル・スクリーム、パティ・スミス、コートニー・ラブをはじめとして数多なアーティストたちと親交を深める。
一方、ポルノグラフィティやコンテンポラリーアートなどにも傾倒、その感性はHYSTERIC GLAMOUR の代名詞の1つでもある T シャツでも表現している。
また、テリー・リチャードソンや森山大道、荒木経惟をはじめとする写真作家の作品集を自主制作・出版するなど、現代写真界にも深く携わる。